湿った電子機器

それがワタシ

手で破るという行為

が大好きなことに気付いたのは、ファミレスでバイトしているときでした。

 

 

 

お客様が少ない時間帯。

銀の円筒にドレッシングを流し込み、ラップで蓋をするという極めて無価値な作業をしていると突然、円筒に張ったサランラップが輝いて見えました。

 

 

 

 

極上のステーキを提供されたかのような、あるいは格調高いクラシックの演奏を聴いたような感覚。

 

 

 

 

円筒の穴にパッと張られたサランラップは、天井の明かりを反射してキラキラ光り、非常に滑らかな質感を感じさせました。

間違えてコラーゲンの膜でも張ってしまったのカナ……? と己の所業の異質さを反省しかけました。この店はどこから、なぜコラーゲンの膜を入手したのカナ……? と物流の不可思議に思いを馳せかけました。

 

 

圧倒的な魅力を湛えるサランラップをそっと撫でてみると、指先から快楽の電流がほとばしり、脳に直撃して絶頂して果てましたっつっ

 

柔らかい表面を夢中になってくにくにしていると、次第にサランラップはたわんでいき、容易く破れそうなシワを形成していく。

 

深く刻まれたシワはサランラップ本来の無垢な美しさをことごとく打ち砕き、不可逆の儚さを表現した新たな美しさが世界を席巻しました。

 

 

 

次々と表情を変えるサランラップに尽きない興味と戸惑いを抱えながら、僕には次のステージがぼんやりと見えていました。

 

 

 

 

 

 

「このサランラップに穴を開けたら、どうなってしまうの……?♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

もはや青年の好奇心を止めるものは何もない。

テーブル席のお客様が呼び鈴をチーンチンチンチチチンチンチンポΩ\ζ°)チーン と鳴らしていましたが、それどころじゃない。

 

 

 

反るほど伸ばした人差し指に全神経を集中させ、サランラップに突き立てました。

 

 

僕の脳内で、グラサンをかけたドレッドヘアーのラッパーが佇んでいる。君も聴きたいか、このBeatを? 服を脱いで待っていなさい すぐに穴を開けるから、さあマイクを持って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プスッ♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スポットライト Come on...

 

 

 

 

 

 

 

ラッパー「yah とあるレストランの昼下がり 

     高圧電流のharmonyに Let's sparky

     Yo 自慢 欺瞞 肥満 詐欺 唾棄 

     滞るとこ全部吐き出して All right

     2-4 tableのお客様 中身ヘッズと思しき 能ある鷹? 

     いざ knockして rockして Dive into the dressing!」

 

 

 

 

 

 

 

それが、僕が「ものを破る」ということに魅入られた発端でした。思えば幼少期から、紙おしぼりを破ったり防災頭巾を破ったりと兆候はありました。

 

 

 

 

重要書類をシュレッダーするよう頼まれれば、僕の腕力が唸ります。シュレッダーなぞより細かく千切ってやろう。

 

 

 

僕は映画館スタッフになれません。

チケットをいちいちモギる役になると、快感で腰が抜けることでしょう。

 

 

 

一般人は物体を認識するとき、まず生物・無生物とか、有機物・無機物の分類から始めます。が、僕の場合は破れる・破れないです。

 

「うん、この細腕はモギれそうだな」

「むう、この筋肉を手こずりそうだ」

「久々にシャバの肉をつかめる」

 

そういった判断を経てはじめて、「で、こいつ誰だ?に移ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日、弊社の社長が仕事中に発狂して突然オフィスから飛び出しました。

社員全員で鼻をホジって待っていると、トイザらスの袋を抱えて少年のような笑顔を浮かべた社長が戻ってきました。

 

 

 

 

「ビンゴ大会やろ」

 

 

 

 

彼がそう言い放った途端、オフィスは歓声で満たされました。

いい歳こいて、ビンゴ大会で大喜びするオトナ達。踏みつけられる重要書類。水槽で暴れる金魚。秩序の崩壊。

 

オトナ達は仕事を放棄してビンゴカードを取っていきます。

社長の表情は飼育員のそれでした。

 

 

かくして景品のないビンゴ大会が開催されました。

 

揃ったときの射幸心だけを求めて鼻息を荒げる社員を見て、「なんてエコな会社なんだろう」と心が温まります。

 

 

これだけ盛り上がっているところに水を差すのは無粋というもの。大して興味のない僕も、ビンゴカードを貰いました。

 

 

 

 

これが間違いだった。

 

 

 

紙を手に取った瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

 

 

 

なんだこの紙は

 

この穴を開けられる為の構造をした紙は、なんだ

 

 

 

 

 

僕の脳裏で、今までのビンゴ大会の記憶が走馬灯のように駆け巡る。

 

 

幼少期――

 

読み上げられる番号を無視して狂ったように全ての穴を開けたかと思えば、

「揃いました。次のカードください」

とルール ガン無視の言葉を繰り返すhauro少年の姿。

 

周囲でビンゴ大会に興じる人々はその無慈悲な光景に恐れおののき、コウベを垂れ、涙を流し、しれっと景品交換を行う。

 

高笑いを続けた少年は興奮しすぎて気を失い、目が覚めると記憶を失っていた。

 

 

僕は、普段の温厚な自分とのギャップに苦しみ、あろうことかそんなビンゴ大会の記憶そのものを封じてしまったのです。

そしてビンゴカードを持った今、その封印が解かれてしまいました。

 

 

 

 

hauro「フウウゥウゥゥ……みンな、逃げテ……」

 

同僚「どうしたのhauro? ビンゴを一緒に楽しもうよ!」

 

hauro「ンンフゥウゥゥもウだメ……」

 

同僚「! hauroどうしたんだ! 数字も読み上げられていないのに穴を開けるなんて、気でも触れたのか!?」

 

 hauro「ンンンンン……!!」

 

同僚「ああっ……そんな……!」

 

hauro「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!!!!」

 

同僚「hauro! なんてことだ……一列揃っちまったああ!! 景品何がいい?」

 

 

 

 

理性を失った怪物は次々とビンゴカードを手に取り、ひたすら穴を開けていく。

 

横一列の穴5箇所を人差し指を用いて連続で開ける「壱凛伍連撃」をカマしたかと思えば、紙面を撫で続けいつの間にか穴が開いている感覚を楽しむ「鈍法・【崩】」に移行する。

 

多種多様な技を駆使して相手を翻弄し、ドン引きするほど戦いを愉しむその姿はまさに

 

 

 

 

 

 

まさに……

 

 

 

 

 

まさに、アレ

 

 

 

 

 

 

うーん

 

 

 

 

 

 

ダンサー、です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや意味不明